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「DNAタイプライター」で受精卵から128万細胞まで、マウスの発生系譜を復元

ワシントン大学のジェイ・シェンデュア教授のチームが、細胞が分裂するたびにDNAに順番に記録を残す分子記録装置を用いて、マウス胚1個の約2週間の発生過程を、128万個の細胞の系統樹として再構成した。

掲載誌
Science
論文発表
執筆
NBS編集部
「DNAタイプライター」で受精卵から128万細胞まで、マウスの発生系譜を復元

1個の受精卵がどのような順序で分かれて数百種類の細胞タイプになるのかは、哺乳類では直接観察しにくい。胚が母体の中にあるためである。米国ワシントン大学・シアトル合成生物学ハブのジェイ・シェンデュア(Jay Shendure)教授のチームは、Scienceに、この問題を「細胞の中の記録装置」で回避する研究を発表した。

細胞自身に家系図を書かせる

DNAタイプライター(DNA Typewriter)は、CRISPRベースの編集ツールが、特定のDNA区間に短い配列を順番に書き込むよう設計された分子記録装置である。細胞が分裂するたびに記録が蓄積されるため、後で各細胞の記録を読めば、どの細胞がどこで分かれたかをさかのぼることができる。研究チームは、この装置をマウスの胚に適用して約2週間の発生記録を残し、1細胞トランスクリプトーム解析と組み合わせて、128万個の細胞の遺伝子発現と系譜を同時に得た。

その結果、受精卵を根とし、時間が補正された1本の系統樹ができた。最初の分裂で生じた2つの娘細胞は、編集の急増ではっきりと区別され、互いの対照群の役割を果たした。研究チームは、原腸形成(gastrulation)の時期に特定の細胞の系統だけが際立って増える「クローン優勢」を定量し、系統樹で兄弟にあたる細胞どうしが偶然よりはるかに高い頻度で同じタイプであること、タイプが異なる兄弟細胞は最終的な分化の地点を示すことを確認した。細胞タイプがいつ分かれたかを示す時間表も復元した。

意義と限界

哺乳類の発生を「系譜に錨を下ろした地図」として描けることを、初めて大規模に示した事例であり、先天性疾患や発生異常の起源を追跡する基礎資料となりうる。ただし、マウス胚1個から得られた結果であり、記録装置を遺伝的に導入しなければならないため、ヒトには使えない方法である。記録密度と細胞の捕捉率の限界のため、系統樹の一部は推定に依存している。

この記事のポイント
  • CRISPRベースの逐次記録装置で、マウス胚の約2週間の発生を記録
  • 128万個の細胞のトランスクリプトームと系譜を組み合わせ、受精卵を根とする系統樹を復元
  • 原腸形成期のクローン優勢、兄弟細胞のタイプの一致、細胞タイプの分岐の時間表を確認

研究の限界 マウス胚1個に基づく結果であり、遺伝子改変した記録装置が必要なため、ヒトには適用できない研究ツールである。系統樹の一部は推定に依存している。

原著論文

  1. Yu Q, Kim H, Seidel S, … Qiu C, Shendure J · Department of Genome Sciences, University of Washington / Seattle Hub for Synthetic Biology(米国)ほか. A DNA Typewriter records the cell lineage history of a mouse, from zygote to late organogenesis. Science. DOI: 10.1126/science.ael0508

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